人工知能第一研究室

 
wavelet変換を用いた日常生活における心音分析の研究
  • 研究背景・目的

近年では社会全体の高齢化などにより健康管理の意識が高まっているので身近で簡単に健康活動できるようになっています。また、平成23年の死亡率の割合を見てみると、1位が悪性新生物、2位が心疾患、3位が肺炎となっています。今回はその中の心疾患、心臓について着目をしました。しかし健康活動の一環として心臓を調べようと思っても、正常なのか異常なのか専門的知識がないとわからないという問題点があります。

死亡率

これを解決するために、専門的知識がなくても測定し、解析するシステムを作成することが今回の目的です。また、心臓を調べる機器について、心電計と聴診器があります。心電計は詳しく調べることができるが、高価で複数箇所装着する必要があります。聴診器は安価で気軽に計測することが可能です。今回は家庭でも気軽に使えるようにしたいので、聴診器を用いて心音について解析をしていきます。

 

  •   wavelet変換

 無題

Wavelet変換とは音データに対して、上の図の(Gabor)マザーウェーブレットと呼ばれるものを用いて、周波数成分と時間成分を解析することができます。このマザーウェーブレットを引き伸ばすことで低周波、縮めることで高周波帯を精密に解析することができます。この特徴より、周波数が低く、パルス的信号である心音の解析に適していると考えられます。

wavelet式

  • 録音方法

 DSC_0390

聴診器の先端のゴムチューブを切ったところに

DSC_0391

 このマイクロホン直接を取り付けて

DSC_0392

このようにして録音をしていきます。録音した心音は下のプレイヤーで聞くことができます。

心音図

 

 

  •  類似度

録音した心音が「正常」なのか「異常の可能性あり」なのかは、録音したデータと既存のデータをwavelet係数を用いてパタンマッチング、類似度を計算し、1番類似度の高いデータを正解データとして出力をします。今回、類似度の計算は周波数ごとの相関係数の平均値をとっています。絶対値が「1」に近いほど相関があり、「0」に近いほど相関がないとなります。

以下の図で相関係数について説明していきます。横軸は周波数(Hz)、縦軸は相関係数の絶対値を表しています。また、心音は擬音語で「ドックン」と表現されますが、実線は「ドッ」の部分で、点線は「クン」部分を表しています。

1and1_CC

 上の図はデータの異なる、正常心音同士の相関係数を計算した結果です。50Hz-200Hzにおいて、「ドッ」と「クン」のどちらも相関係数は1に近いところにあるので相関がある、すなわち似ているデータなので正解データとして判断します。

1and41_CC

上の図は正常心音と「クン」の部分が異常である心音の相関係数を計算した結果です。50-200Hzにおいて「ドッ」の部分においては相関がありますが、「クン」の部分においては0.2前後となっており相関がない、すなわち似ていないデータなので不正解データと判断されます。

以上の相関係数を用いて類似度の計算を行います。i番目の周波数に対するwavelet係数をX(i),Y(i)とするとき

 類似度式とします。|| ||はl2ノルムの2乗を表しているので、この式は相関係数の平均値を表しています。’は微分を示し、画像のエッジ部分についても見て、パタンマッチングをします。

 

  •  モデルデータ

 パタンマッチングをする際の基準として、モデルデータを作成します。従来研究に則って、16のカテゴリから標本3つずつのwavelet係数の平均値をモデルデータとしています。下の画像は正常心音のモデルデータ作成を示しています。心音は通常擬音語で「ドックン」と表しますが、左側は「ドッ」の部分、右側は「クン」の部分になります。

 model

 

  • 解決したい課題・解決方法

日常環境下で聴診器から直接録音しても、解析できるのではないかと考えられます。しかし、そのときの問題点として雑音が混入すると識別率が下がってしまいます。

今回は雑音抑圧手法として、スペクトルサブトラクション法(SS法)を使用します。SS法とは、雑音のパワースペクトルの平均値を雑音の入った信号パワースペクトルから引くことで雑音を推定する手法です。雑音パワーの推定方法として、データの最初の部分を雑音とみなし、フーリエ変換をかけることでパワースペクトルを取得。0-0.032秒と0.016-0,048秒の平均を用いました。

SS法式

  • 実験

雑音を人為的に付加した心音にSS法をかけて雑音抑圧をし、パタンマッチングを行い正常か異常を識別できるか実験をしました。評価方法として、雑音が入っていないときの識別率が86%と比較します。実験条件として、従来研究のアルオリズムでプログラムを作成し、15種のカテゴリのパタンマッチングを行った。使用した雑音はホワイトノイズ、ピンクノイズ、聴診器から録音した腹部の雑音を使用しました。SN比(心音と雑音の比率)については10dBと0dBと-10dBについてみていきました。

実験結果は下の図になります。SN比が1dB、0dBの場合については結果に差はあまりないですが、SN比が-10dBの場合はホワイトノイズにおいて33%から56%、ピンクノイズについては10%から43%に識別率が増加しました。

実験結果

  • まとめ

心音を解析する際、雑音が入ることで識別率が低下しました。そこで、今回はSS法処理することで雑音抑圧し、正答率が上昇するか実験を行いました。結果として、SN比が-10dBの場合は10%の識別率が50%へ上昇しました。

今後も心音の雑音抑圧に効果的な手法を検討していきたいと考えています。

 

続きは「ウェーブレット変換を用いた心音分析における雑音抑圧パラメータについて」を参照してください。