音メディア処理研究室

 
聴取者のHRTFと勝ち抜き戦方式により選択されたものとの類似性
  • 研究背景・目的

最近は、MP3プレーヤーやスマートフォンに入れた音楽を楽しむ機会が増えています。
特に外出先で音楽を聞くときはヘッドホンやイヤホンを利用することがほとんどだと思います。
しかし、従来のヘッドホン(イヤホン)再生では頭の中で音が鳴っているように聞こえ、
充分な臨場感を得ることができないという問題点があります。

これを解決するため、頭の前後左右から音がきこえるようにし、
ヘッドホンでも3次元の立体的なサウンドを楽しめるための研究が盛んに行われています。

tounai頭の中で音が鳴る(頭内定位と言います)

 

  • 従来研究

従来研究としてまず、頭部伝達関数(Head-Related Transfer Function, HRTF)というものを用います。
頭部伝達関数とは、音源から耳に至るまでの音の伝達特性です。
これを用いることにより、ヘッドホン等の2chの出力だけで仮想的にサラウンドな音を作り出すことができます。

しかしながら、頭部伝達関数は、聞く人の頭の形や耳の形などの身体的特徴に依存した個人性があります。
よって、他人の頭部伝達関数を使用した音を聴くと、うまく音の位置を知覚することができない場合があります。
そのための解決方法として、個別に測定するという方法がありますが、専門的な計測装置と時間がかかるため、
すべての人の頭部伝達関数を測定するのは 不可能です。
その他の方法として、様々なものがありますが、今回は複数ある頭部伝達関数の中から
自分に最も合うものを選択させるという方法を使用します。

以下の文献を参考研究としています。
参考文献(定位感に基づく個人化頭部伝達関数の勝抜き戦選択)

  • 解決したい課題

先ほどの参考研究の中から問題点を挙げます。

・選択された頭部伝達関数は被験者本人のものと関係性があるのかが不明

・選択されたものを実際に使用したとき被験者が合っていると感じるものなのかが不明

以上の2つです。

参考研究では頭部伝達関数を選択する過程についてと、
被験者の選択傾向の考察のみが述べられていたため、
本研究ではこの選択法が実際に有効であるのか2つの問題点を中心にを検証していきます。

 

  • 実験内容

実施する勝ち抜き戦の方法などは先ほど述べた参考文献と同じ方法を用います。
詳しくは従来研究の最後に掲載したPDFを読んでください。

この勝ち抜き戦によって選ばれた頭部伝達関数を

  1. 両耳間時間差
  2. 両耳間レベル差
  3. 振幅スペクトル

を用いてグラフ化し、本人のものと比較をします。

  • 両耳間時間差について

両耳間時間差(interaural time difference, ITD)とは、一つの音源から発する音が左右の耳に届く時間の差のことです。

左図のように正面に音源があれば両耳から等距離であるため、時間差はありません。

ですが、右図のように正面より左側にあれば左耳に先に到達し、右側にあれば右耳に先に到達します。

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 Aという頭部伝達関数とBという頭部伝達関数を比較した例が下のグラフになります。

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  • 両耳間レベル差について

両耳間レベル差(interaural level difference, ILD)とは、一つの音源から発する音の左右の耳における強度の差のことです。

両耳間強度差とも呼ばれます。

図のように音源が正面より右側にあれば右耳のほうが大きく聞こえ、

左側にあれば左耳のほうが大きく聞こえます。

キャプチャa

Aという頭部伝達関数とBという頭部伝達関数を比較した例が下のグラフになります。

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  • 振幅スペクトルについて

周波数の正弦波の大きさをグラフとして表すものです。

比較した例は下のグラフになります。

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  • まとめ

今回述べた3つの方法を用いて、勝ち抜き戦で選ばれた頭部伝達関数と本人のものを比較し、類似性が表れるのかどうかを検証していきます。

また、選ばれたものと本人のもの、さらに勝ち抜き戦で順位の低かったものを1つの計3つのHRTFを
音楽と処理をして被験者本人に聞こえを評価してもらいます。
これにより今回の選択法がどれほど有効であるのかを検証することができ、
有効であれば今後さらに実用的な研究が行われると考えます。

 

  •  最後に(おまけ)

本研究は頭部伝達関数(HRTF)の個人性について行っていますが、

現在立体的な音の再生を行う際は標準的な頭部伝達関数を用いたり、ダミーヘッドと呼ばれる機器を用いたりしている場合が多いです。

ダミーヘッドを用いて録音した音を体験することができるiOSアプリを作成しましたので、こちらのページも見てみて下さい。