最近は、MP3プレーヤーやスマートフォンなどで音楽を楽しむ機会が増えています。
特に外出先で音楽を聞くときはヘッドホンやイヤホンを利用することがほとんどだと思います。
しかし、従来のヘッドホン(イヤホン)再生ではスピーカで再生する信号そのものを入力信号とするため、本来の音場で聞いているときに加わる方向情報が左右の音に加わらない結果、再生音像が頭の中にこもる頭内定位という現象がおき、音の方向感が出ないという点で、充分な臨場感を得ることができませんでした。
頭内定位については特に気にならないという人もいますが、やはりライブやコンサートなどのような場所で聞いているような臨場感を味わいたいという人もいます。
この問題を解決するため、頭部伝達関数(HRTF)を用います。頭部伝達関数とは、耳殻、人頭および肩までふくめた周辺物によって生じる音の変化を伝達関数として表現したものです。
頭部伝達関数を加えることによって、ヘッドホン再生でありながら、サラウンドのような音響を仮想的に再現することができます。
しかしながら、頭部伝達関数は、聞く人の頭の形や耳の形に依存した個人性があります。よって、他人の頭部伝達関数を使用した音を聴くと、うまく音の位置を知覚することができない場合があります。また、頭部伝達関数の計測には、専門的な計測装置と時間がかかるため、すべての人の頭部伝達関数を測定するのは 不可能です。
この問題を解決するために、頭部伝達関数を測定することなく、しかも簡易に個人に適したものを構築する研究が行われています。その中で、事前にいくつかの頭部伝達関数を用意し、自分に最も適していると思う頭部伝達関数を選んでもらうという方法をピックアップしました。そして、聴取者が選択したものが実際に本人のものと類似しているのかという疑問点をテーマとしました。
アプローチ方法としては、他人の頭部伝達関数を合成した音源を複数用意し、勝ち抜き戦を行っていき、その中から選ばれたものと聴取者本人のものをグラフ化するなどして、比較を行うというものです。
勝ち抜き戦で選ばれた頭部伝達関数と本人のものがほぼ一致しているものであれば、本人の頭部伝達関数を測らずに選択したものを合成した音源を聞いても、立体的に聞くことができます。
本研究は頭部伝達関数(HRTF)の個人性について行っていますが、現在立体的な音の再生を行う際は標準的な頭部伝達関数を用いたり、ダミーヘッドと呼ばれる機器を用いたりしている場合が多いです。
ダミーヘッドを用いて録音した音を体験することができるiOSアプリを作成しましたので、こちらのページも見てみて下さい。