研究背景
- 幼い頃に一度は親や先生にしてもらった絵本の読み聞かせ
- 読み聞かせは親と子のコミュニケーションの手段だけではなく
科学的にも効果があると実証されている- 読み聞かせ中の脳の働きを調べる実験(泰羅雅登研究チーム、2008 )
- 近年スマートフォンの普及により絵本に関するアプリケーションが多数存在する
従来の絵本アプリケーションについて
- 絵本を扱うアプリケーションは大きく分けて3種類ある
- 「紙絵本をデジタル化し自由に読むことができるもの(動く絵本を含む)」
- 「ナレーションによる読み聞かせを行ってくれるもの」
- 「自分のオリジナルの絵本が作成できるもの」
- 読み聞かせを行ってくれるアプリケーションはあらかじめ
録音された音源を再生しているだけである- そのため、従来の絵本の内容と異なる絵本(創作絵本など)を読んでくれるアプリケーションは存在しない
オリジナル絵本の読み聞かせを行うにあたり、
自由な発話が行える音声合成システムに着目
- 現存している物語のパロディ作成&読み聞かせを行うことのできる児童向けアプリ「こえでものがたりをつくろう!」を作成
- 音声合成システムとして、Android用読み上げ機能TTS(Text To Speech)を使用し読み聞かせを行っている
研究目的
作成したアプリの読み聞かせ音声は単調で
実際の人間が絵本の読み聞かせをした際の音声と異なるように感じた
より絵本の読み聞かせ時の音声に近い
「絵本読み聞かせ風人工音声」を作成する必要がある
絵本を読み聞かせる際の声に着目し、
絵本読み聞かせ音声の特性を分析
関連研究
「乳児の絵本読み聞かせ場面における情緒応答的かかわりに関する研究–母親と女子大学生の比較–」
(高島由佳子、2009)
母親10名と育児未経験者である女子大学生15名の
乳児(生後5か月)10名に対する対応の違いを比較している
→対乳児音声の特徴など
<結果>
母親、学生ともに、乳児音声の基本周波数、持続時間が共に
上昇、増加し、読み聞かせ時にマザリーズが出現する
マザリーズ(対乳児音声)
- マザリーズとは養育者が乳幼児に話しかける時の音声で、別名
対乳児音声(Infant-directed speech;IDS)とよび、
成人に話しかける時の音声を対成人音声(Adult-directed speech;ADS)とよぶ - IDSはADSよりも幼児の注意を引き、親しみやすい印象を与える
- IDSの特徴
- 基本周波数が高い
- 基本周波数の変動範囲が広い
- 発声時間が短い
- 発話ポーズが長い
- 発声速度が遅い など
解決したい課題
絵本読み聞かせ風人工音声の作成に向けて
絵本を読み聞かせる際の声に着目
対乳児音声の特徴項目を参考に
絵本読み聞かせ時の音声の特徴を
主観的なものだけではなく、数値的に分析
アプローチ方法
- 子どもへの絵本の読み聞かせ経験のある者数名を話者に選定し、音声を録音
- 使用絵本は絵本ごとの特徴がみられる可能性があるため複数冊用意
- 絵本読み聞かせ音声との比較としてニュース原稿の朗読も行う
- 対乳児音声の特徴を元に録音音声をPraatで分析、分析する項目は以下の通りである
- 基本周波数(ピッチ)
- 発声時間
- 発話ポーズ時間
- 発声速度
分析
普段小中学生を対象に活動している絵本読み聞かせサークル
「結い」に所属している20代の女子学生3名を話者として、
絵本読み聞かせとニュース原稿の朗読を行ってもらい、
録音音声をpraatにて分析
録音システム:スマートフォン用録音アプリ「Hi-Q MP3 Rec」
(サンプリングレート:44kHz、ビットレート:128kbps)
録音環境:大学内の空き教室
分析に使用した絵本
- 図書館の職員と話者である結いの学生に協力してもらい、
絵本を選定 - 音素バランス性も考慮し、選定した絵本は大きく分けて
日本人作家と外国人原作の絵本の二つである
【日本人原作絵本】
- 「ぐりとぐら」 作:中川李枝子 画:大村百合子
- 「めっきらもっきら どおんどん」 作:長谷川摂子 画:降矢奈々
【外国人原作絵本】
- 「すてきな 三にんぐみ」 作:トミー=アンゲラー 訳:今江祥智
- 「かいじゅうたちのいるところ」
原作:モリース・センダック 訳:神宮輝夫
分析に使用したニュース原稿
音声言語としては最も規範性が高いと評価されるNHK
アナウンサーのニュース朗読の一例としてとりあげられている
自然なイントネーションによるニュース朗読原稿を使用
分析結果
上記の結果をまとめた表↓
考察
<今回得られた絵本読み聞かせ音声の特徴>
従来の対乳児音声の特徴をほぼ得ていたが、発声速度に関しては対乳児音声の特徴と異なる結果が得られた
→これは、聴取者である子どもが聞き取りやすいよう、話者が一文字一文字、丁寧にハキハキと絵本を読んでいるからと考えられる
<読み方の特徴>
- 句読点(、。)や文章の切れ目、「て・に・を・は」で間をあける
- 「おおきな」「いっぱい」などの大きさや量を表す単語を強調する
まとめ
- 多数の絵本読み聞かせアプリケーションが存在するが、
オリジナル絵本の読み聞かせを行ってくれるものは存在しない
→絵本読み聞かせ風人工音声の作成を提案
- 作成のため、対乳児音声の特徴項目を元に絵本読み聞かせ時の音声の特徴を主観的なものだけではなく、数値的に分析
→従来の対乳児音声の特徴をほぼ得ていたが、発声速度に関しては対乳児音声の特徴と異なる結果が得られた
<今後の進め方>
絵本の物語の展開や会話文と地の文、登場人物の感情ごとに
分析し、より細かく特徴を調べ、変化があるのかを検討していく必要がある
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