研究の概要
- 消音ギターのピックアップ出力に対し,頭部運動に追従した楽器音生成フィルタを適用することで,通常のギター(ボディがあるギター)の音色や音の広がりを再現する研究です.
- 消音ギターについて
- 消音ギターとは
- YAMAHA製の[サイレントギター]やARIA製の[Sinsonido]があります.
消音ギターは通常のギター(生ギター)のボディー部分を排した楽器です.
本研究ではYAMAHA製の型番[SLG110N]というサイレントギターを使用します.
- YAMAHA製の[サイレントギター]やARIA製の[Sinsonido]があります.
- 利点
- ボディーによる音の増幅が発生しないことから,場所や時間にとらわれず練習できます.
- 欠点
- 通常のギター(生ギター)であれば,ボディーの特性や部屋の響きによって音が変化しますが,消音ギターの場合は,ピックアップでひろった弦の音をヘッドホンから直接聴くことになるため,音の広がりのない無機質な音に聴こえてしまいます.
- 消音ギターとは
- 奏者のための楽器音生成フィルタ
- 目的
- 測定
- 生ギターの駒部分に加振機を当て,測定信号を与えます.その時の放射音をダミーヘッドマイクロホンで取得しインパルス応答を取得します.
- ダミーヘッドの首を水平方向に回転させながら,左右60度ずつのインパルス応答を測定しました.↓測定したインパルス応答をwavファイルにしたもの
インパルス応答
- 頭部運動追従リアルタイムフィルタ
- 概要
- 消音ギターを演奏する際の頭部水平回転を取得し,頭部の角度に合わせたフィルタをライン出力に適用し,ヘッドホンから再生します.
- フィルタを頭部運動に追従させることで頭外定位しやすくなります.
- 生ギターのボディ放射音周波数特性や部屋の特性(反射や残響)を再現を目指します.
- 頭部運動の取得
- MATLABを使ったリアルタイムフィルタ
- 消音ギターのピックアップ出力をオーディオインターフェースを介してMATLAB(数値計算ソフト)に与えます.
- Kinectから出力された顔の水平角が入った外部ファイルを読み込み,顔の水平角によってフィルタを切り替えながら消音ギターのライン出力に適用し,計算結果をヘッドホンから出力します.
- システム図.
- 概要
- 評価実験
- 客観評価:倍音スペクトル距離の比較
- 生ギターで弦を鳴らした音と,消音ギターのピックアップ出力に提案フィルタを適用した音との周波数の差を計算します.
計算式は以下のような倍音スペクトル距離を採用しました.
- 実験結果
評価の結果,本研究で提案するフィルタを適用したほうが,生ギターの音色に近づくことが確認できました.
- 生ギターで弦を鳴らした音と,消音ギターのピックアップ出力に提案フィルタを適用した音との周波数の差を計算します.
- 主観評価:シェッフェーの一対比較[中屋の変法]
- 実際に提案システムを用いて被験者に演奏してもらい,音の広がり,ギターの定位感の評価してもらいました.
被験者は学生19名 (女:5名 男:14名)で,有意水準5%としました.リアルタイムフィルタの入出力サイズは500サンプルとします. - 比較フィルタ
- A=消音ギターのピックアップ出力
- B=消音ギター搭載のフィルタ(リバーブ)
- C=提案フィルタ(頭部運動追従):サンプル数500
- D=提案フィルタ(0度でフィルタを固定):サンプル数4000
- 設問
- 「どちらが音の広がりを感じるか」
- 「どちらがギターの定位感があるか」
- 実験結果
シェッフェーの一対比較によって検定を行った結果,音の広がりに関してはフィルタD(提案フィルタ(0度でフィルタを固定))がもっともよく,フィルタDとBの間に有意差がありました.
ギターの定位感に関しては,フィルタCがもっともよく,それ以外のフィルタに対し有意差がありました.
- 実際に提案システムを用いて被験者に演奏してもらい,音の広がり,ギターの定位感の評価してもらいました.
- 客観評価:倍音スペクトル距離の比較
音の広がり
ギターの定位感
- 結論
- 頭部運動に追従する楽器音生成フィルタを提案しました.実験の結果,フィルタを適用したほうが生ギターらしい音色になり,定位感,音の広がりに効果があることがわかりました.
- 今後の課題として,頭部運動追従フィルタのフィルタ長を入出力サイズよりも長くするとクリックノイズが発生する問題を解決する必要があると考えます.
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